旅行先や参拝先では、御由緒書を読むのが楽しみの一つです。
先日訪れた長野県の戸隠神社奥社と、山梨県の武田神社で、思いがけず「歯の神様」に出会いました。今回は、虫歯や歯痛にまつわる興味深い信仰についてご紹介します。
戸隠神社で見つけた「虫歯の神様」

戸隠神社奥社の参道の先には、九頭龍大神をお祀りする九頭龍社があります。
何気なく御由緒書を読んでいると、なんと九頭龍大神には虫歯除けのご利益があるとのこと。思わず「えっ、本当に?」と驚いてしまいました。
九頭龍とは、一つの尾から九つの首を持つ龍(あるいは大蛇)とされる神様です。この九頭龍は、梨が大好物だと伝えられています。
昔から、「歯なし」から「なし」を取ると「歯」が残ることにちなみ、九頭龍の好物である梨をお供えし、自分は一生梨を食べないと誓うと歯の病が治るという言い伝えがありました。そのため、九頭龍大神は「虫歯の神様」として信仰されるようになったそうです。
江戸時代の十返舎一九の『戸隠善光寺往来』にも、虫歯を患う人が梨を断って祈願すると治ると記されているとか。

現代では、虫歯や歯周病は歯科医院で適切な治療を受けることで改善できます。しかし昔は、歯の病気が命に関わることもあり、人々は神仏にすがるしかなかったのでしょう。
実は虫歯になりにくい「梨」

ところで、梨は実は虫歯になりにくい果物です。
甘味成分の一つであるソルビトールは糖アルコールの仲間で、虫歯の原因になりにくい性質があります。
さらに梨には、アスパラギン酸、カリウム、食物繊維、ポリフェノール、クエン酸など、体にうれしい栄養素も豊富に含まれています。
ただし、ソルビトールは摂り過ぎるとお腹がゆるくなることもあります。健康によい食べ物でも、食べ過ぎには注意したいですね。
武田神社で出会った「歯の神様」
別の日には、山梨県の武田神社を訪れました。
武田神社は、戦国武将・武田信玄公をご祭神としてお祀りする神社です。

境内を歩いていると、社殿の脇に「歯の神様」と書かれた案内を発見。「これはお参りしなくては!」と近づいてみると、そこには白山神社が祀られていました。
「白山神社が歯の神様なの?」

不思議に思って調べてみると、石川県の白山比咩神社を総本宮とする白山信仰には、古くから歯痛治癒の信仰があることがわかりました。
白山神社が歯の神様と呼ばれる理由
その由来にはさまざまな説があります。
修験者が荒行によって歯痛止めの法力を得たという説や、後桜町天皇が歯痛を患った際、白山神社の神箸と神塩によって痛みが治まったという説があります。
また、昔の人々を悩ませた歯槽膿漏による「歯瘡(はくさ)」が「はくさん」に変化したという説や、「歯苦散(はくさん)」=「歯の苦しみが散じる」という語呂合わせの説も伝えられています。
歴史上、源頼朝が歯痛に苦しんだことは有名ですが、武田信玄公も歯痛に悩まされ、白山さまに歯痛治癒を祈願したと伝えられています。
戦国武将ほどの英雄でも、歯の痛みには勝てなかったのでしょう。歯の病気が生死を左右することもあった時代、人々にとって歯の健康は今以上に切実な問題だったのだと思います。
歯固め石に込められた願い
私も白山さまの前でそっと手を合わせ、「皆さんのお口が健康でありますように」とお願いしてきました。
ふと足元を見ると、白い小石がたくさん置かれていました。


これは「歯固め石」と呼ばれるもので、お宮参りの際に「丈夫な歯が生えますように」と願うためのものだそうです。
昔から、子どもの健やかな成長と歯の健康が大切にされてきたことが伝わってきます。
神頼みも素敵。でも一番大切なのは毎日のケア
昔の人々は、歯痛や虫歯に悩まされながらも、治療法が限られていたため神仏に祈りを捧げてきました。
しかし現代では、虫歯や歯周病の原因も治療法も明らかになっています。毎日の歯みがきや定期的な歯科健診によって、多くのお口のトラブルは予防することができます。
歯の神様を訪ねる旅は、とても興味深い体験でした。
神様にお願いするのも素敵ですが、お口の健康を守るためには、まず日々のセルフケアと定期健診が大切です。

神様にお願いしたあとは、ぜひ歯医者さんへもGO!
定期健診を受けて、いつまでも健康なお口を維持していきましょう。

コメント